クリニックレター
2025.12.01
クリニックレターvol.128 今年のインフルエンザ、なぜこんなに早いの? 新しい「鼻のワクチン」フルミストとの関係を医師が解説
今年は、東大阪市でも11月初旬ごろからインフルエンザの患者さんが一気に増えはじめ、現在も大流行が続いています。「もうインフルエンザが流行しているの?」「例年より早くない?」という声を、当院でもたくさんお聞きしています。
ちょうど同じ時期に、鼻から噴霧する新しいインフルエンザワクチン「フルミスト®」の接種も始まり、「生ワクチンが流行を広げているのでは?」と不安に思われる方も少なくありません。
そこで今回のクリニックレターでは、なぜ今年はインフルエンザの流行が早いのか、
そして 生ワクチンであるフルミスト®と流行との関係はあるのか について、
医学的な見解もふまえながら、一般の方向けにわかりやすく整理してお伝えします。
- なぜインフルエンザが「早く」「長く」流行するようになったのか?
- 「フルミスト」ってどんなワクチン?
- 生ワクチンだから「ウイルスをばらまいて流行させている」の?
- フルミストが「流行を早めている」という根拠はある?
- ワクチンは「流行を作る側」ではなく「守る側」
- 患者さんへのお願いとメッセージ
1.なぜインフルエンザが「早く」「長く」流行するようになったのか?
① コロナ禍で「インフルエンザにほとんどかからなかった数年」があった
新型コロナの流行中は、
- マスク
- 手指消毒
- 外出・イベントの自粛
などが徹底された結果、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。
そのため、
- インフルエンザに一度もかかったことがない小さなお子さん
- 何年もインフルエンザに触れていない大人
が多くなり、インフルエンザに対する「免疫の貯金」が減った状態になっています。
この現象は「免疫負債(immunity debt)」という言葉で説明されることもあります。Jimdo+1
② 生活がコロナ前に近づき、ウイルスが広がりやすくなった
ここ数年で、
- マスクを外す場面が増えた
- 学校行事・部活動・イベント・旅行が戻ってきた
- 海外を含め、人の移動が活発になった
結果として、インフルエンザウイルスが広がりやすい環境に戻ってきています。
③ シーズンパターン自体が崩れてきている
感染症の専門家の解析では、日本のインフルエンザは、
2022-23シーズン以降、「早めに始まり、いったん落ち着いてからまた増える」など、従来と違うパターンを示していることが報告されています。病気と治療の検索サイト - 病院の医師が医療情報や症状を執筆
海外でも「コロナ後にインフルエンザの流行時期がずれた」という報告があり、
世界的に季節のリズムが変化していると考えられています。病気と治療の検索サイト - 病院の医師が医療情報や症状を執筆+1
❖ まとめると
- 免疫の貯金が減っている
- 生活がコロナ前に近づき、人の動きが活発
- 季節性インフルエンザの「カレンダー」が少し崩れている
こうした要因が重なり、インフルエンザが「例年より早く」「大きく」流行しやすい状態になっていると考えられます。
2.「フルミスト」ってどんなワクチン?
最近話題の鼻から噴霧するインフルエンザワクチンが「フルミスト®点鼻液」です。
- 弱くしたインフルエンザウイルスを使う 生ワクチン(経鼻ワクチン)
- 鼻にスプレーすることで、
o 全身の免疫
o のど・鼻の局所の免疫
の両方を高めることを狙ったワクチンです。日本小児科学会+1 - 日本では2023年に承認され、2024/25シーズンから本格的に使われ始めた新しいワクチンです。日本小児科学会+1
- 対象は 2歳以上19歳未満、1回接種の3価ワクチンとして位置づけられています。大阪グランドクリニック+1
2024/25シーズンには、国内で約131万本が供給されたと報告されていますが、日本全体のインフルエンザワクチン接種本数から見ると、まだ一部の医療機関・一部の年齢層で使われている段階です。感染症センター+1 今シーズン、にしおかクリニックではフルミストを使用していません。
第一三共株式会社 HPより
3.生ワクチンだから「ウイルスをばらまいて流行させている」の?
① ワクチンウイルスが鼻から出てくること(シェディング)はある
生ワクチンは「弱くした生きたウイルス」を使うため、
接種した人の鼻から、数日間ワクチンウイルスが検出される(シェディング)
ことがある、という研究結果があります。PMC+1
ただし、これらは非常に弱くされたウイルスであり、
多くの研究で「周りの人にうつって重い病気を起こしたケースは極めてまれ」とされています。PMC+1
② どのくらい「周りにうつる」可能性があるのか
海外での長期のデータでは、
- ワクチンウイルスが実際に周囲の人にうつった例は きわめて少数
- うつったとしても、重いインフルエンザを起こした報告はほとんどない
とまとめられています。竹内内科小児科医院+1
そのため、各国の専門家委員会は、
重度の免疫不全の方など一部のケースを除き、
周囲への影響は非常に小さいと判断し、小児のインフルエンザ予防に長年用いてきました。竹内内科小児科医院+1
4.フルミストが「流行を早めている」という根拠はある?
現時点で分かっていることを整理すると:
1. インフルエンザの季節パターンの変化(早期流行・長期化)は、フルミスト導入前からすでに始まっていた
2022-23、2023-24シーズンなど、フルミストが一般に使われる前から「例年と違うパターン」が観察されています。病気と治療の検索サイト - 病院の医師が医療情報や症状を執筆
2. フルミストの対象は2〜19歳で、接種している人も全体から見ればまだ一部
日本の全インフルエンザ患者さんの年齢構成やワクチン接種状況を考えると、
フルミストだけで流行のタイミングを変えるほどの影響があるとは考えにくい、というのが専門家の見解です。日本小児科学会+1
3. 海外では20年以上使われているが、「フルミストが地域全体の流行を早めた」というデータはない
アメリカやヨーロッパなど、多くの国で経鼻生ワクチンが使われてきましたが、
流行のタイミングを変える原因として指摘されたことはありません。竹内内科小児科医院+1
❖ まとめ
現時点の医学的知見からは、
「フルミストが原因でインフルエンザが早く流行している」と考える根拠は乏しいというのが妥当な見方です。
むしろ、
- 免疫の貯金が減っている
- 生活様式や人の移動の変化
といった社会全体の要因のほうが、流行の時期に大きく影響していると考えられます。
5.ワクチンは「流行を作る側」ではなく「守る側」
インフルエンザワクチン(従来の注射型ワクチンも、フルミストも)は、
「流行を作るため」ではなく、「重症化を防ぐため」に存在するものです。
どのタイプのワクチンにも、
- 効果の限界
- 副反応の可能性
はありますが、
「打つことで流行が早まる」というものではないと理解されています。感染症センター+1
6.患者さんへのお願いとメッセージ
今年はインフルエンザの流行時期が読みにくく、例年より早く・長く続く可能性があります。
どのワクチンを打つか(従来の注射/フルミスト)は、
- 年齢
- 体質・基礎疾患
- ご家族の状況
などをふまえ、かかりつけ医と相談しながら決めていただくのがおすすめです。
にしおかクリニックでは、
- インフルエンザそのもののご相談
- ワクチンの種類・接種タイミングについてのご相談
もお受けしています。
ご不安なことがあれば、どうぞ遠慮なくスタッフにお声がけください。
※このレターは、現時点で公表されている国内外の専門家の情報・ガイドラインをもとに、一般の方向けにやさしく整理したものです。
個々の病状やご事情によって対応は変わりますので、具体的な判断は診察のうえで一緒に考えていきましょう。

